思いつき連載 VBA王子 ニューヨークへ行く #14
前回
#14
赤羽は資料管理室に入るなり、北浦のおかっぱ頭に向けて言った。
「Option Explicitですね」
北浦はふふんと笑った。「そうだ」
「他にどこかおかしかったですか?」
「いや、特に問題ない」
「だとしたら、50点は厳しくありませんか。変数の宣言自体はしてますし」
「お前な、変数の宣言の強制っていうのは、あれだぞ? あれみたいなもんなんだ」
「どれですか」
北浦は腕を組んだ。
「えーと・・・信号、そう、信号みたいなもんだ。ドライバー同士が気をつけていれば事故は起きないかもしれないが・・・いや、違うな。えーと、ちょっと待って」
赤羽は待った。
「あ、あれは? ・・・」
「・・・どれですか」
「違った」
そうですか、と赤羽は言った。
「なんかない?」
翌日、赤羽は再び資料管理室に向かった。
北浦はチュッパチャップスをなめていた。
「答えは見つかったか?」
「え、何がですか」
「Option Explicitについてだ」
「あ、それですか。いえ・・・ていうか、自分が考えることになってましたっけ」
「そう、これが社会人必須スキル『なんとなく相手がやることになってた感を出すの術』だ」
「ネーミングセンス・・・」
「じゃあ、まあ、その件はもういいか?」
「もういいです。宣言の強制は一度つければいいわけですし、重要だっていうこともなんとなくわかりました」
「ドライだなあ」
「北浦さんのおかげです」
「じゃあ、昨日言っていたとおり、そろそろ実際に、簡単なマクロの修正をやってもらう」
はい、と赤羽はうなずいた。
消耗品購入マクロ。各課でExcelに入力された購入希望の一覧を総務でとりまとめて、業者に発注するために使われている。
赤羽は昨日から、そのコードを見て、動きを確認するように言われていた。
そのむかし、北浦が原型を作ったものらしい。FAXで送るために帳票を出力していた時代から、csv出力できるように機能追加されたものの、ほとんどそのまま生き残っている、のだそうだ。
マクロの動きを知っている赤羽としては、コードを見て驚くことが多かった。
まずは、その量。何のためにあるのかわからないプロシージャがいくつもある。頭が痛くなりそうだ。
コードも、パッと見てわかる部分は少ない。日本語のコメントがついているから、その部分で何をしているかなんとなくわかる程度だ。
コメントを頼りに見て行くと、どうしてこの部分がこれだけのコードで実行できているかわからなかったりもする。
自分にできるのだろうか。赤羽は不安になった。
とりあえず、教わったデバッグ実行をおそるおそる実行してみる。
「どうだ?」
「さっぱりわかりません」
「そうか。じゃあ、その調子で頑張れよ」
「いやいやいや」
「お前に教えることはもう何もない」
「いやいやいやいや」
「食パンの袋を止めるあのプラスチックのやつの名前くらいしか」
「・・・・・バック・クロ―ジャーのことですか?」
「な、なぜそれを!!」
赤羽はモニターに視線を戻し、F8を押した。
- つづく -