思いつき連載 VBA王子 ニューヨークへ行く #2 

前回

vba-belle-equipe.hatenablog.com

登場人物

赤羽健太

主人公

王子友哉

赤羽の同期。営業のエース候補。

浮間船子

赤羽の先輩。

  • 甘いものが好き
  • 辛いものも好き
  • 食べ物は大体好き

#2

「え? うちの会社で使ってるシステム? なんか売ってるのをちょっとカスタマイズしてもらってるらしいよ。よく知らんけど。え? 中で作ったシステム? VBA? 何それ・・・マリちゃん? ああ、ああ。麻里ちゃんね。辞めちゃった。営業の与野と・・・、あの、あの子ね。そうそう。なんか作ってるとかなんとか、聞いたかなあ。よく知らんけど。え? どうしましょうってどういうこと? なおさないと仕事できないんでしょ? じゃ、なおしてよ。マリちゃんができたんだからできるでしょ? 調べて、なんとかしてよ」
 係長への相談終了後、赤羽は自席に戻って息をついた。
 飽きることもなく右手の爪を見ていた浮間がすっと寄ってくる。
「大変ね」
 赤羽が驚きと諦めを遠慮気味に込めた表情で見返すと、浮間はにっこりと笑った。
「あのう。やっぱり、僕がやることになるんでしょうか」
「まあ、そうでしょうね」
 まあ、そうでしょうね、と赤羽も内心思った。
「大丈夫、大丈夫」浮間は赤羽の左肩甲骨付近をバンバン叩く。
「あ、そうそう。ついでに、資料室におつかい頼まれてくれる?」
「何のついでですか」
「よろしこ」
 返事の変わりに殴り書きのメモを受け取り、赤羽は席を立った。
 
 地下1階にある資料室は、ほのかにかび臭い空気に包まれている。
 赤羽はこの場所が嫌いではなかった。誰もいない空間は心に平安をもたらしてくれる。しかし、電気がついているということは、先客がいるようだ。
「失礼しま・・・す」
 コツ、コツ。
 自分の足音が思ったよりも響くのを感じながら、赤羽はおそるおそる足を進める。お目当ての棚は一番奥の、左側だ。
 コツ、コツ、コツ―。
 一列、また一列と棚を通り過ぎるたびに左右を覗きながら進む。人影はない。
 電気の消し忘れだろうか、と思い始めたころ、かすかに紙をめくる音。一番奥、右の棚の前に男が立っていた。
「失礼しま、す」
 男は手元の資料に夢中だ。おかっぱ頭。少し太め。
バナナマン日村・・・いや、どちらかというとサモ・ハン・キンポー寄りだろうか)赤羽がおかっぱ具合を判定していると、男は振り向いた。
「新人?」
「え?」
 狼狽する赤羽に対して、男は黙って棚を示す。
「えっと・・・あ、本当だ」
 確かに、お目当ての簿冊が2つともある。
「あれ? どうして僕が探しているものがわかるんですか」
「知りたいか」
 そう言われると、あんまり知りたくないと、赤羽は思った。
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・ええと、教えてください。どうしてわかったんですか?」
 男は満足そうに微笑んだ。
「それと、お前はこれも必要になる」
 男は持っていた紙の塊りを赤羽に手渡してきた。何かのマニュアルを印刷したもののようだ。
「えっと・・・?」
「さっき、浮間という女から内線があった。追加で持って来いとさ」
「・・・なるほど」
 赤羽は言い、ふと、目に入った言葉を口にした。
「マニュアル、解説書等・・・ですか」
 男の前の棚にある見出しだ。
「ああ。ま、大したもんはないがな」
「ひょっとして、プログラミング言語の本とかありませんか?」
「何の」
VBAっていうものなんですが」
 男は目を見開いた。
「ぶ、ブイビーエーだとっ!?」


- つづく -