思いつき連載 VBA王子 ニューヨークへ行く #1

 赤羽健太はディスプレイを前にして、固まっていた。
「このExcelファイルなんだけどね、こないだまで動いていたのに今日になったら動かないの。赤羽君若いんだからパソコン得意でしょよろしくね」
 先輩社員に言われてファイルを開いてみたものの、である。
 今日の件数を入力して、実行。言われたとおりに操作してみると確かに
『型が一致しません』
 とエラーらしきものが出る。
 出ることはわかったが、どうしろというのか。
「えっと・・・」
 とりあえず、パソコンを再起動。しばし待つ。
 ファイルを開いて、今日の件数を入力して、実行。
『型が一致しません』
「なるほど」
 どうやら型が一致しないらしい。再起動してもそこは譲れないらしい。
「なおった?」
 斜め後ろから野太い声をかけてきたのは依頼人である浮間船子だ。
「いえ、まだです」
「あ、そ」言い放ったかと思うと、甘ったるい声を出す「あー、王子くぅん。ちょうどいいところに。ちょっとい~い?」
 引っ張ってこられたのは王子友哉。赤羽の同期で、営業のエース候補との呼び声も高い期待の新人だ。
「これなんだけどぉ」
「・・・これがどうかしましたか?」
 赤羽と目を合わせると、王子は「よ」と簡単に挨拶をする。
 や、と応じて赤羽は席を譲る。
「なんか、動かなくなっちゃってぇ」
 王子が操作してもやはり、同じエラーが出て止まる。
「これって、マクロですよね。誰が作ったんですか?」
「えーとぉ、前にいた、マリちゃん」
「もういないってことですか?」
「去年でやめちゃってぇ。なんか、噂なんだけど、総務の西川さんと・・・」
「どこか、いじったところはありませんか。うまく動いていた時から変えたところ」
(おー)赤羽は内心、感嘆の声を上げた。
 浮間先輩の噂話を遮るとは、さすが王子だ。
「ないと思うけど・・・」
「ケンタ」急に振り向かれ、赤羽はびくっとする。
「これは、VBAというプログラミング言語で書かれたExcelマクロだ。知識としては知っているが解決策はわからん。後は任せる。俺は次のアポがあるから」
「お、おう。わかった」
「あ、王子くん。あ、ちょ、ありがとね。またね」
 颯爽と立ち去る王子が見えなくなるまで、赤羽と浮間は目で追いかけた。

「なんは、ほはにほいはらひいへろれ」
 浮間は自分で決めたおやつタイムにオールドファッションをほおばっている。
「なんか、他にもいたらしいけどね」
 赤羽が言うと、オッケーサインが出た。
VBAというのが出来る人が他にもいるってことですね。誰ですか?」
 右手のひらを広げて、待てのサイン。コーヒーで流し込んでいる。
「忘れちゃった」
 待つほどの返答だろうか。赤羽は思ったが、社会人なので我慢した。


- つづく -