思いつき連載 VBA王子 ニューヨークへ行く #3

前回

vba-belle-equipe.hatenablog.com

登場人物

赤羽健太

主人公

王子友哉

赤羽の同期。営業のエース候補。

浮間船子

赤羽の先輩。

  • 甘いものが好き
  • 辛いものも好き
  • 食べ物は大体好き

#3

VBA、ご存じなんですか!?」
「いや、よく考えたら全然知らん」
「・・・そうですか」
 赤羽が肩を落とすと、おかっぱ頭の男はしばらくその様子を見つめた後、ん、ん、と咳払いの真似をする。
「ちなみに、どうしてそんなことを訊く」
 赤羽は経緯を説明した。
「なるほど。かくかくしかじか、というわけだな」
「はい」
「まあ・・・」たっぷりと間をあけた後、男は棚を指差した。「一応、VBAの本ならその辺にちょっとだけある」 
「本当ですか! ありがとうございます」
「だが、初心者向けのものはないな」
「そうですか」
 逆引き・・・リファレンス・・・API・・・。赤羽にとっては、何のことやらチンプンカンプンだ。手に取ってしげしげと表紙を眺めても、ぱらぱらとめくっても、それは変わらない。
「『やさしいVBA入門』みたいなものはないんですね」
「ないな」男はなぜか嬉しそうに言う。 
「ちなみに、そのマクロはどれくらいでなおせと言われてるんだ?」
「なる早、とのことです」
 ほうほう、と男は頷く。「それは大変だ」
「大変なんですよ」口に出した途端、赤羽の脳裏に浮間の顔が浮かんだ。あまり待たせるとまずい。「えっと、じゃあ、すいません。ありがとうございました」
「名前は? 新人君」
「え、あ、すいません。申し遅れました。庶務の赤羽といいます」
「・・・レッドウィング」
「え?」

「おっそーい」
 赤羽が頼まれた物を持って行くと、浮間は予想通りの反応を見せた。
「すいません。ちょっと、VBAの本がないか探していたもので」
「あった?」
「いえ。初心者用のものはありませんでした」
「あ、そ。いつなおりそう?」
 いつだろう? 赤羽は考えてみるが、答えが出ない。
(そりゃそうか。原因がわからないし、原因がわかったところでなおせるかわからないんだから。「いつ」と質問することによって、「なおせる」ことを前提にするというテクニックは流石というべきだろうか。その強引さは見習うべき点もあるが、当事者としては、勘弁してくれと・・・)
「聞いてる?」
「いや、あのう。やっぱり、できる人にお願いしたほうがいいと思うんですけど」
「だーかーらー、マリちゃんは辞めちゃったんだってば」
「いや、その、別の人です。誰か、他にもいるんですよね」
 プルルップルルッ―。
 浮間の前の電話機が内線を告げる。浮間は受話器をむんずと持ち上げ、内線用の声で応答し始めた。
 話は終わりだろう。赤羽は諦めと共に自席に戻った。先ほどの何度目かの訴えも、うやむやになりそうだ。いよいよ、自分が、勉強してどうにかするしかないのだろうか。
VBA 入門」とgoogle先生に教わろうとした瞬間、肩をポンとたたかれる。
 振り向くと浮間の笑顔があった。
「赤羽君、出番よ! 広報課でも、なんか動かなくなったらしい」
 なんかってなんだろう。
 なんで自分の出番ということになるのだろう。
 と、赤羽は思った。「了解です」



- つづく -