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思いつき連載 VBA王子 ニューヨークへ行く #10

思いつき連載

前回

vba-belle-equipe.hatenablog.com

登場人物

赤羽健太

主人公

王子友哉

赤羽の同期。営業のエース候補。

川口瑞穂

赤羽の同期。広報課。

浮間船子

赤羽の先輩。

  • 甘いものが好き
  • 辛いものも好き
  • 食べ物は大体好き
北浦和

おかっぱ頭。

#10

「大丈夫だったかなあ」赤羽は自席に着く間際、そうつぶやいていた。
 北浦のおかっぱ頭と蕨係長の吊り上がって見える眼鏡を並べて、思い浮かべる。
「まあ、大丈夫か」
 特に理由は思い当たらなかったが、そう言って終わらせることにした。
 それよりも、やることがある。
 自分用の共有フォルダに入っているテキストファイルを開き、地下で習った作業を復習しなければならない。
 Excelを起動。開発タブを表示。VBEを表示。標準モジュールの追加・・・。
「名前をtestにして、msgboxを・・・」
 腕を組み、モニターをしばらく睨みつけた後、キーをぽんと押す。小さく、メッセージの枠が表示された。
「で、できた・・・」
「なおったの?」
 赤羽が感慨に浸る間もなく、斜め後ろから声がかけられる。声の主は確認するまでもなく、浮間だ。
「いや、まだです。てゆうか、ようやくスタート地点ですよ。自分のExcelでもVBAを書けるってことがわかりました」
「ふーん。よくわからないけど」浮間は口をもごもご動かしながら、ディスプレイをずいっと覗く。
 ほのかにアーモンドの臭いを感じ、赤羽は青酸カリを連想した。
 が、そのことについて特に何も言わなかった。
「『こんにちは』って言ってるよ?」
「はい。僕が表示させたんですよ」
 浮間が意味わからないという視線を送り、赤羽は、どやという視線を送った。
「返事するとどうなんの?」
「・・・どうもなりませんよ」
 なんだ、と浮間は左の頬だけを上げて笑った。「つまんないの」
 赤羽は多少残念に思いながら、気を取り直して次のミッションに移った。
 北浦とのやり取りを思い出す。
「このファイルをまずお前が確認してから、オッケーだったら浮間に渡せ」
「あ、もうなおしてくれたんですか」
「あー、まあ、そういうことでいい」
「そういうことでいいとは?」
「うー、まあ、別に今の段階でお前が知る必要はないが、知りたくば教えてやろう」
「・・・結構です」
「いいか、あの女がどこもいじってないのにおかしくなったって言っていたら、それはどこかしらいじってるってことだ」
「結構ですって言ったのに」
「だから、元ファイルを渡せば大体解決する。ただ、そうでない場合もあるから、まずはお前の環境で確認しろ。ここの端末だとつながってないから」
 はいはい、と回想の北浦に返事しつつ、赤羽はExcelファイルを開いた。

 広報課第一係長の蕨は、入社当初から、女性であるということよりも頭の回転、話す速さ、歩く速さで注目された。現在では「社内で一番仕事ができる」という評価を確固たるものとし、女性初の部長はもちろん、さらに上も狙える存在とみなされている。
 北浦は入社当初から誰が好き好んでやるのだろうというそのおかっぱ頭で注目され、現在では「そういえばあの人最近みないね」という評価を確固たるものとしている。 
 資料管理室で、2人は久々に向かい合っていた。
「どう? そろそろやる気になった?」
 蕨が口を開く。何気ない質問も、彼女が口にすれば攻撃となる。
 北浦は辟易すると同時に懐かしくも思っていた。
「何が」
「システムの統合? それとも、連携システムの構築だっけ」
 蕨がペンをコツコツと机に当てる。
「そんな余裕はない」
「時間はあったでしょう。そろそろやることやれば?」
 北浦は大きく息をついた。
「資料の電子化は大変な作業なんです。暇な部署だと思われるのは心外です」
「わかっています。でもあなたのことだから、PDF化する仕組みを何かしら作っているんでしょう? 誰でもできるように」
 北浦は目をそらした。
「ひょっとしたら、OCRを使って全文検索できるように、とか考えてる? もしくはもうできちゃった?」
 北浦は顔をしかめた。そして、おずおずと口を開いた。
「前から言おうと思ってたんだけどさ」
「何?」
「眼鏡、似合ってるな」



- つづく -