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思いつき連載 VBA王子 ニューヨークへ行く #4

前回

vba-belle-equipe.hatenablog.com

登場人物

赤羽健太

主人公

王子友哉

赤羽の同期。営業のエース候補。

浮間船子

赤羽の先輩。

  • 甘いものが好き
  • 辛いものも好き
  • 食べ物は大体好き

#4

「やれやれ」とつぶやきながらも、階段を下りる赤羽の足どりは軽かった。
 広報課に着き、同期の川口瑞穂に声をかける。
「あれ、赤羽君、こんにちは」
「や、やあ。こんにちは」
 想像より挨拶がぎこちなくなったという反省よりも、名前を呼んでもらえたという喜びが勝った。自然と顔がほころぶ。
「珍しいね、こんな辺鄙なところに」
「辺鄙ではないと思うけど」
「あ、ひょっとして、システムの話?」
「うん、そうなんだ・・・」
 連絡くれたの、川口さん? 違うことはわかっていたが、名前を口にしたい衝動にかられた。
 言うか、言わないか、それが問題だ。
「じゃ、こちらへどうぞ」
 大して葛藤する間もなく、赤羽は奥に案内された。
 
「これ、ボタン押しても何の反応もなくなっちゃったんだけど。何とかしてくれる? それと、広報誌のフォーマットが変わるから、PDF作るシステムもなおしてほしいんだけど」
 浮間に対して連絡をしてきた、蕨という女性係長は、いかにも仕事ができますという眼鏡をかけ、いかにも仕事ができますというオーラを発しながら早口でまくしたてた。
「あ、ええと、その、VBAをできる人がいなくなってしまいまして、ちょっとその・・・」
 こちらで対応することができないんですが・・・。
 赤羽は蕨の眼力に押され、先を続けることができない。
「何が?」
「え?」
「何言ってんの。あんたんとこの仕事でしょ。斎田マリから引き継ぎ受けてないの?」
「はあ、いや、その・・・自分は会ったこともなくて」
 蕨は自分を抑えるように、目を閉じ、息を吐いた。
「確かにあんたは新人かもしれないけど、そういう問題じゃないでしょ」
 赤羽は、はあ、と言うことしかできない。
「内製のツールに関する要望や修正はあんたんとこでとりまとめて、斎田マリが作るか、北浦に作らせるかの調整をしてたじゃない。しっかりしてよ」
 すいませんすいません、と頭を下げながら、赤羽は今の自分が川口にどう見えるだろうかと考えていた。

「ああ、北浦ね。そういえば、そうだったかも。あの、地下にいる、ホトちゃんみたいな髪型の人ね」
 浮間は赤福をほおばりながら、そう言った。
「ホトちゃん?」
「雨上がりの」
 赤羽の脳裏に一人の人物が浮かんだ。サモ・ハン・キンポーっぽいと判断したおかっぱ具合については触れないことにした。
「ちょい待ち」と言って、浮間は引き出しをがさごそやっている。「ああ、これかな」
 A4の紙4,5枚をホッチキスでまとめたものを赤羽に手渡す。
 システム関係引継書、とあった。

 資料管理室は資料室の手前にあった。ドアのガラス部分から明かりが漏れている。赤羽はトントンとノックをして、ドアをそーっと開ける。
「失礼します」
 狭い部屋に、パソコンデスクと椅子が1つずつ。長机には簿冊がところせましと置かれている。赤羽は入るなり、息苦しさを感じた。窓がないことも影響しているだろう。
 パソコンに向かっているのは、資料室で会った、おかっぱの男だった。
「先ほどは失礼しました。あのう、北浦さんでいらっしゃいますか?」
 男は一瞬だけ赤羽に目を向けた後、すぐにモニターに戻す。
「ああ、そうだけど。君は・・・筆耕係の小金沢君だっけ」
「いえ。庶務の赤羽です」
「で、ご用向きは? VBAのこと?」
「あ、はい。そうなんです。実は・・・」
 引継書を見せながら赤羽が説明しようとすると、男はきっぱりと言った。
だが断る



- つづく -